tokujirouの日記

古来バリアーは「障碍」と表記されました。江戸末期に「障害」が造語されましたが終戦まで人に対して「害」がつかわれることはありませんでした。「障害者」は誤表記です。「碍」の字を常用漢字に加えて「障碍者」に正常化を急ぎましょう。漢字文化圏では「障碍」が常識です。

冊子『碍の字を常用漢字に』をPDFにて配布いたします。(複製・配布歓迎します) https://bit.ly/2OIP0nX

「碍」と「こころの健康政策構想会議提言報告会in芦屋」

遅れている日本の精神保健医療の改革を目指して、長妻厚労相の示唆の下、4月3日に東京の松沢病院で「こころの健康政策構想会議」が発足しました。高水準にある自殺率など「国民のこころの健康の危機」の打開策を国に提言すべく同じ志を持つ90名超の委員が手弁当で結集し、毎週休日を返上して精力的な討議を積み重ね5月28日には「提言書」が長妻厚労相に手交されました。会議の構成員は医療関係者のほか障碍当事者や介助者(家族)、福祉サービス提供者、研究者などを網羅しています。

この動きに呼応して、芦屋メンタルサポートセンターは7月24日にこの「構想会議」の企画・立案・実行の主役である西田淳志医師(東京都精神医学総合研究所研究員)を招いて東京の外では初めて「提言報告会in芦屋」を実施しました。

参加者は各分野の幹部100名を予定していたところ近畿各方面より156名の出席があり新築の芦屋市保健福祉センターの多目的室は通路にも椅子を置くほどの盛会でした。こころの健康問題への市民の関心の高まりを実感しました。

この報告会の席を借りて「障碍」の表記問題につき意見を述べました。以下に発言内容を記載します。


             「しょうがい」の表記・・・「障害」「障がい」「障碍」

                                   NPO法人芦屋メンタルサポートセンター    
                                       副理事長 豊田徳治郎

只今、西田先生からお話がありましたように、「こころの健康政策構想会議」の提言を今後いかに具体化していくか、そのために「政策実現会議」が新設され明日からでもその議論が始まるということで、まさに半世紀遅れているといわれます日本の精神保健福祉の夜明けも近いと期待しております。

政策の実現にはお金が必要です。現下の厳しい財政状況の下で予算を確保するには、基本的には世論の支持を得ることが不可欠です。私どもの寺内理事長もかねてより指摘しておりますが、この分野には一定の「知識」が必要であり、この知識が欠落していては一歩も前には進まないのが現実であり、社会の「無知」こそがこのような遅れを招いている最大の要因であるとも申しております。ステイグマ(偏見)もこの「無知」に起因するものと断言できると思います。

従いまして、私ども芦屋メンタルサポートセンターは手元不如意の中で、一般市民を対象とした普及啓発活動に重点を置いて活動しております。私がこれまでの10年間に接触させていただいた方々はみなさんご立派で良い人たちばかりです。まだまだ私どもの努力が足りないと思っております。

この普及啓発活動の一環として、どうすればステイグマを軽減できるかを考えてまいりました。過去の不祥事の過剰報道の累積に加えて近時では池田小事件などでの膨大なメデイアの報道によりまして「精神障害者」は「危険で何をするかわからない反社会的な人たち」という社会通念が形成されてしまっております。このような反社会的な人たちに福祉などとんでもない、貴重な税金を投入する必要はないということになってしまうわけです。因みに、触法周辺の障碍者は全体の僅か0.1%以下なのですが。

国は5年前に「精神保健医療福祉の改革ビジョン」という立派な施策を立案しましたが実行が伴っておりません。数値目標まで設定しながら本気でレビューもされませんし、実行しなくとも何等不作為の責任も問われないというのが現状です。

それで、これほどまでに社会通念と実態との乖離の大きい「精神障害者」という呼称・表記を実情に合ったことばに変更してはどうかということになりました。その議論の中で「障害」の「害」という表記がおかしいのではないかということに気付いた次第です。

調べました結果、戦前はもっぱら石偏の「碍」が使用されていたものが戦後の漢字制限で石偏の「碍」が当用漢字から外され、文部省により全く意味の異なるウ冠の「害」に書き換えるよう指導されていたことが判明しました。ウ冠の「害」には語源的にも「人を殺す」という物騒な意味がありまして、これは明らかなミスリードであったわけです。その証拠に「害」を含む熟語は「害悪」「害毒」「殺害」など殆ど全てネガテイブな意味を持っています。他方、石偏の「碍」の語源は「大きな岩を前にして人が思い悩んでいるさまを表す」とあります。

従いまして「障害」の表記は石偏の「障碍」であるべきであり、ましてや「害」を人に対して使用して「障害者」と表記するのはもってのほかだというのが私どもの見解であります。誤りは直ちに正されてしかるべきと思っております。

同じ漢字圏の中国・台湾・韓国でも全て石偏の「碍」が使用され「障碍」と表記しています。日本が批准を迫られている「障碍者権利条約」の邦訳にウ冠の「害」が使用されることになれば国際舞台で恥を掻くことになるのではなかろうかと危惧しております。現に外務省の仮訳はウ冠の「害」になっております。

現在文科省は30年ぶりに常用漢字を見直し中で、今年6月7日に196字の追加字種を含む答申を出しましたが「碍」の追加についてはパブリックコメントで追加要望が多かったにもかかわらず保留扱いとなっております。私どもも意見書を2回提出しております。

文科省は自己判断を回避し内閣府に設置されている「障碍者制度改革推進本部」
にその判断を委ねた格好になっています。推進本部は傘下の推進会議に「障がい表記作業チーム」を作り関係者へのヒヤリングを経て11月中旬に意見をまとめる予定になっております。

平成13年に東京の多摩市はウ冠の「障害」の表記は不適当であるとして「害」
を平仮名書きにして「障がい」との表記に変更しましたが、当時は石偏の「碍」が常用漢字に含まれていなかったため、やむなく交ぜがきにせざるを得なかったと聞いております。これがその後全国に広がり自治体では10の道府県と5つの政令指定都市および多数の基礎自治体がこの交ぜがきを採用して現在に至っております。民間もこれに倣い多数の団体が交ぜ書きに変更しつつありますが
この交ぜがきは民間でも障碍当事者の間でも必ずしも好評ではありません。
「日本語として美しくない」「小手先の小細工であり意図が見え透いていて姑息である」などがその理由です。因みに中央省庁は問題意識を持ちながらもウ冠の「害」を使用し続けています。従いまして巷間ではウ冠の「障害」と交ぜがきの「障がい」石偏の「障碍」の3つの表記が混在しているのが現状です。

これから内閣府で議論がなされ秋には方向が示されるものと予想しますが、
私どもは、「碍」を常用漢字に追加した上で、一般用語としての民間での表記は完全に自由とし、公用語には石偏の「障碍」の表記を採用してこれに統一すべきであるとの立場でございます。

今年2月20日に東京で「精神障害者」の呼称と表記を考えるシンポジウムが
開催されまして私もパネリストの一人として参加しました。そのときに発言しました内容をお手元にお配りさせていただいておりますのでご参照いただければ幸いでございます。

最初に申し上げましたように私どもの目指すところは「精神障害者」というあまりにも社会通念と実態とが乖離した呼称・表記の改善でございます。「障碍」の表記の問題はその第一歩と位置づけております。この改善が国民の皆様の意識の面での障壁を除去することにお役に立てばと願っております。先月、障碍者制度改革推進会議から提出されました第1次意見書の中にも「社会的障壁の除去」として市民の意識上の障壁を取り除くことが記載されています。

精神障害者」の代替呼称として芦屋家族会の幹部から「心的障碍者」でどうだろうかという提案がございまして芦屋市ではこれを試みに使用しております。
山中市長にも公の場でご使用いただいておりまして、お蔭様で芦屋市内では徐々に普及しつつあります。ただ一部にはどうもしっくりこないというご意見もありまして、私どももこの「心的障碍者」を何が何でも皆さんに押し付けたいとは思っておりません。どうか良い呼称があればどしどしご提案いただければと思います。広く全国民から公募するのも一案かと存じます。最終目標はあくまで普及啓発を通じて国民の意識の障壁がなくなり半世紀遅れの日本の精神保健福祉が前に進むことでございます。ご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。 以上で私からの報告を終わります。
  
 2010年7月24日 こころの健康政策構想会議提言報告会in芦屋にて