「碍」と主査打ち合わせ会での論点
佐藤先生がまとめられた8つの課題につき以下論点ごとに豊田の意見を述べます。
論点1 常用漢字表は「目安」なので、自治体や民間が(ウ冠の)「障害」以外の表記を利用できることを周知すべき。
豊田:本当に自治体が「障害」以外の表記、例えば「障碍」を使用できるのか疑問です。「目安」は建前であり、実質的には invisible barrier があって不能ではないでしょうか。
具体的に「財団法人日本障がい者スポーツ協会」の社名を「財団法人日本障碍者スポーツ協会」へ変更したいがよいかとのお伺い書を文科省に提出してみてはどうでしょうか。この書状に対し文科省より「碍」の使用はご自由に」との書状を頂戴したいものです。
論点2 (ウ冠の)「障害」、(石偏の)「障碍」、(かなまじりの)「障がい」、すべてひらがなの「しょうがい」のいずれも尊重されるべき。
豊田: 「いずれも尊重されるべき」とは言っても、法令等の表記は一表記に統一されるべきであり、今のまま放置はできず、早急に「障害」か「障碍」か一つを選ばなければなりません。交ぜ書きについて文科省は、語の意味を把握しにくくさせることがあり、見直されるべきであるとしています。従いおのずと優先順位がつくのは自然です。
論点3 「選択肢としての漢字」という考え方はこれまでの常用漢字表の考え方(一語一表記)と異なる。選択幅を広げるために追加するとなると、常用漢字表の性格を変えてよいかどうかの議論となり、検討の時間が相当必要となる。
豊田:当初より、豊田はウ冠の「害」を使用した「障害」を人に対して使用するのは「害」の「誤用」だと主張しており、「害」を「碍」で置換し正常化して欲しいと要望しているもので、選択肢として「碍」の追加を要望しているものではありません。
論点4 H22年の常用漢字表改訂議論や「障がい者制度改革」での議論をもっと整理すべき。
豊田:平成22年の議論のレビューは時間の許される限り徹底してやっていただきたいと思います。文科省側で「碍」の追加の是非をめぐりワーキンググループでの議論も含め長時間を費消されたことは議事録を拝見しても明白です。
内閣府・障がい者制度改革推進会議での議論に先駆けて、文科省は早々と、「碍」の追加を認めないとの基本方針を決定されました。その理由は大きくは二つでした。
即ち 1. 「碍」使用頻度が追加の基準に満たない
2 「碍」には「悪魔・怨霊が祟る」という意味があり、「碍」は「害」より
よい意味とは言えず「害」の代わりに「碍」を追加する意味がない。
これに対する国民の意見は
1. 国民の希望は「害」を「碍」で置換し「障害」表記を「障碍」に正常化したいというものであるから、使用頻度が基準と言うならばその対象は「障害」の使用頻度であるべきで、「障害」の使用頻度は基準を大幅に上回っており、基準を充分クリアーしていると考えます。
2. 国内、国外共に「碍」は仏教語であり、奈良時代以降「妨げ」の意で使用され今日に至っていますが、奈良時代末期より、「碍」の意味が仏教語より派生して「悪魔・怨霊が祟る」といった意味で使用されたことが事実としても、少なくとも直近の100年ではそのような意味で使用された例は見当たらず、そもそも、このような話が「碍」の常用漢字への追加を云々する議論の場に持ち出されること自体が奇異なことではないかと思われます。ましてや「悪魔・怨霊が祟る」と人を殺めるの意を持つ「害」
とでどちらがより不適当かは自明でしよう。
論点5 H22文化審議会答申で、障害者政策の検討次第で(石偏の)「碍」の追加を検討するとしたのだから、内閣府・障害者政策委員会での検討を促したらどうか。
豊田:本件は基本的に国語の問題であり、内閣府・障害者政策委員会に参考意見を求めることは妥当だとしても、「碍」の追加の可否を含め、ウ冠の「害」を使用した「障害」表記、特にこれを人に対して使用することの是非の判断は文科省にて主体的に判断されるべき事項と考えます。
論点6 H22年の常用漢字表改訂時にも(石偏の)「碍」について時間をかけた議論がなされたことを周知すべき。
豊田:平成22年の議論のレビューは大事で過去の経緯の周知も必要ですが、それ以上に結論の内容が適切であったかどうか、当時の国民の声も参考にされつつ再度議論していただく必要があると考えます。
論点7 現状でも多様な表記が可能であることの根拠を明示したほうがよい。
豊田:論点1に同じなので省略します。
論点8 それぞれの分野で多様な観点から(ウ冠の)「障害」の表記の検討が行われるべき。
豊田:本件は障害者の独占マターではありませんので多様な観点からの検討が
必要です。
多様な分野とは、大きくは教育・医学・馬術・競馬・宗教・碍子・その他
だと思いますが、「障害」も含めほぼ全てが「本家帰り」の関係にあり、
「障碍」への変更は若干の面倒さはあってもおおむね「歓迎」でしょう。
特に、医学分野は先達の緒方洪庵先生が幕末に洋書を邦訳するにあたって全て
「碍」を使用されており、慣れは時間の問題だと思います。馬術・競馬も最近
まで国際競技では「障碍競争」が使用されていたとのことです。学校の運動会
でも障碍物競争と書けば「山あり谷あり競争」などとまわりくどい表現は不要
となります。
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冊子『碍の字を常用漢字に』をPDFにて配布いたします。
こちらは自由に複製していただいて結構です。
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