tokujirouの日記

古来バリアーは「障碍」と表記されました。江戸末期に「障害」が造語されましたが終戦まで人に対して「害」がつかわれることはありませんでした。「障害者」は誤表記です。「碍」の字を常用漢字に加えて「障碍者」に正常化を急ぎましょう。漢字文化圏では「障碍」が常識です。

冊子『碍の字を常用漢字に』をPDFにて配布いたします。(複製・配布歓迎します) https://bit.ly/2OIP0nX

「碍」と英和対訳袖珍辞書

 障がい者制度改革推進会議に対して文化庁国語課が提出した資料の中で英和対訳袖珍辞書が紹介されています。この辞書は日本最初の英和辞書で文久2年(1862年)に200冊が刊行されています。953ページからなり収録語数は3万超とのこと。編者、堀達之介は、オランダ通詞中山家の出身で、のち同役の堀儀左衛門の養子となり、嘉永6年(1853年)ペリー来航の折には通訳を務めています。その後、堀は蕃書調所の翻訳方となってこの辞書を編纂したようです。

 この辞書の欧文名は A Pocket Dictionary of the English and Japanese Language で、この Pocket Dictionary が「袖珍辞書」と邦訳されています。「袖珍」は袖に入れて携帯するのに便利という意味だそうです。編纂の手法は H.Picard が著した英蘭辞典 A New Dictionary of the English and Dutch Languages のオランダ語部分を和訳する方法で進められたと記されています。形状が枕に似ていたことから「枕辞書」とよばれ広く活用されたようです。

 「障害」は Annoy, Annoyance の項の訳語として出てきます。曰く 退屈ナル物、煩労、障害、妨ヶ、損害 とあります。
他方、100年後の研究社の新英和大辞典1960年版では Annoy, Annoyance は vt. 1.うるさがらせる、いらいらさせる 2.妨害する、痛手を負わせる(harm) n. 1.迷惑、悩み 2. うるさいこと、厄介な事物 とあります。

 この両者で共通するのは 「煩わせる」と「妨害する」であり disturb や harm にも近いことになります。そうであれば、この場合「障碍」=「障害」とすれば「障害」よりも「傷害」が適当ではないかと考えます。繰り返しになりますが日本以外の漢字圏には「障害」の表記はありませんので「障碍」か「傷害」かということになります。しかし日本特有の「障害」表記が「布令字弁」より一歩早くこの辞書に使用されていることは特筆に値すると思います。幕末(袖珍)と明治初期(布令)ですからほぼ同時期と言えるかもしれませんが。

 文化庁国語課が提出した資料にはもう一つ「江戸時代翻訳日本語辞典」があります。この Rub の項に 摩軋、障碍、困難 とあります。ここには明確に「障碍」が採用されています。前記の研究社の辞書にも 摩擦、障害、困難、と出ています。これは1960年版ですので「障碍」ではなく「障害」となっていて当然です。

 この「江戸時代翻訳日本語辞典」には「障碍」が出現しているのに「布令字弁」で除かれているのは、やはり明治新政府廃仏毀釈の方針と関係があるのでしょうか。「布令字弁」は官許辞書であり政府が目を通しているはずです。「布令字弁」で敢えて新造語の「障害」が採用され、伝統的な「障碍」が捨てられたのは、どう考えても維新政府の意向が働いているとしか考えられません。可哀そうな「碍」よ 嗚呼!