tokujirouの日記

古来バリアーは「障碍」と表記されました。江戸末期に「障害」が造語されましたが終戦まで人に対して「害」がつかわれることはありませんでした。「障害者」は誤表記です。「碍」の字を常用漢字に加えて「障碍者」に正常化を急ぎましょう。漢字文化圏では「障碍」が常識です。

冊子『碍の字を常用漢字に』をPDFにて配布いたします。(複製・配布歓迎します) https://bit.ly/2OIP0nX

受難続きの「碍」

 「碍」という漢字は誠に受難続きの可哀そうなことばです。まずは幕末・明治初期に編纂された日本語最初の官許の辞書《布令字弁》からはずされました。維新政府が当初、神仏分離廃仏毀釈の方針を採ったため、「碍」の字が仏教から派生したことばということで嫌われたのかもしれません。《布令字弁》には「障害」のみが掲載されました。それでも「障碍」は明治・大正・昭和としぶとく生き延び「障碍」と「障害」の使用頻度は略半々を維持し、ポッダム宣言では obstacle が「障礙」と邦訳されました。(礙は碍の本字)

 敗戦後すぐマッカーサーは漢字廃止を命じました。それは勘弁願いたい、当面これだけは使用を認めて欲しいとして昭和21年(1946年)に制定されたのが当用漢字です。「碍」はこの当用漢字から漏れました。戦後の混乱期でもあり、仕方のないことでした。

 10年後の昭和31年(1956年)、文部省(国語審議会)は一般国民を対象に「同音の漢字による書き換え」を発表して指導しました。その表に 障碍→障害 が明記されています。
「障碍」という熟語は「障害」と書きなさいということです。これがダメ押しとなり「碍」の字は庶民からますます縁遠い存在になりました。

 これに先立って昭和29年には内閣法制局から「法令用語改正要領」が発せられ、そのあと昭和56年にもこの要領は改正されていますが、そのいずれでも法令の「障碍」を「障害」と表記するよう義務付けています。この要領は平成22年に完全廃止され「法令における漢字使用等について」に置換されていますが。 

 その後、漢字制限の流れが維持・増強に変わり、昭和56年(1981年)に35年ぶりに当用漢字が見直され95字が追加された常用漢字が告示されました。この95字に「碍」は含まれていません。当時は、そもそも問題意識そのものがなかったようです。終戦から36年も経過し、戦後の造語とみられる「障害者」という表記も広く普及していたと思われますが、この表記に違和感を覚える人がいなかったとは不思議でなりません。やはり日本では今もって障碍者に対する関心や人権意識が低いせいでしょうか。

 それから29年、平成22年(2010年)に常用漢字が更新され196字追加で「改訂常用漢字」が告示されました。告示の5年前には更新されるぞという情報を入手し「碍」追加の実現に向けて全力投球をしましたが一歩及ばす涙をのみました。その経緯の一部始終をこの日記に記しています。

 「碍」の追加の是非をめぐり「碍」と「害」ではどちらがより悪い意味かが論点の一つになりました。わたくしは「害」には「殺す」という意味さえあったので、当然勝てると思っていたのですが、「碍は仏教用語で悪魔・怨霊のたたりとの意味があり必ずしも害よりよいことばとは言えない」との反論に逢い負けてしまいました。廃仏毀釈と悪魔怨霊の祟り、これも因縁ですね。ああ受難続きの「碍」に同情しきりです。そろそろ日の目を見させてやりたいものです。